トーナメント中継を見ていると、最終ホールのプレーを終えたプロゴルファーたちが揃ってある場所に入って行く姿を目にすることがあります。優勝を決めた選手も、そのまますぐに優勝インタビューや表彰式を行うことはありません。必ず、“あること”をするために指定の場所へ向かうのです。
『アテストエリア』と呼ばれるその場所は、その日のスコアを提出するために設けられたエリア。そこで『アテスト』を終えなければ、ラウンドを終えたことにならないので、プレーを終えた選手は何をするよりもまずそこに向かわなければなりません。
専用の小屋が設置されている場合もありますが、クラブハウス内に設置されていることもあります。サインを求めるギャラリーの方々が、クラブハウスへ入っていってしまう選手の背中をガッカリした様子で見送られていたりしますが、アテストによるものなので仕方がないことなのです。（しばらくすれば戻って来る可能性もあるので、どうしてもサインが欲しい時などは、キャディに確認することをお勧めします！）
プロゴルフトーナメントでは、スタートホールでスコアカードが配られて、その際にマーカーの確認が行われます。マーカーとはスコアを付ける人のこと。AプロのマーカーをBプロ、BプロのマーカーをCプロ、CプロのマーカーをAプロといったように、ペアリング（組み合わせ表）の順番に則ってそれぞれにマーカーが決められています。
配られるスコアカードは、ゴルフ場でよく見るような同伴の競技者全員（4人分）のスコアを記載できるものではなく、ひとり分のスコアを書くだけのものになります。
18ホールを終えた後、アテストエリアと呼ばれる場所にその組の全員で移動。マーカーが記入と署名をしたスコアカードをプレーヤー自身が確認し、ＯＫであれば署名（サイン）して提出します。それをアテスト係がチェックして、そこでやっとラウンド終了となります。つまり、そこでスコアカードが受理されなければ、優勝スコアでホールアウトしていたとしても、優勝が確定したことにはなりません。
アテストミスによる失格
トーナメントだけに関わらず、アマチュアの競技においても必ず行われるアテストですが、スコアカードの記入に関するミスなどで失格になる選手は少なくありません。
マーカーの記入ミスによる過少申告や、署名忘れ。勘違いした、ホールを間違えた、自分のスコアを書いてしまった……など、記入ミスの理由は様々。スコアの記入は、１ホールを終える毎に記入する選手ばかりではなく、3ホール毎にまとめて書く選手や、ハーフ毎という選手もいます。自分のプレーに集中するあまりに起きてしまう記入ミスは、ある程度仕方がないことと言えます。
もし間違って記入されていても、アテストの際にプレーヤーがマーカーに書き直してもらえば全く問題ありません。つまり、記入ミスがある状態で提出された場合、その責任は、最後にスコアを確認してサインする選手本人にあるということになります。
サインの記入ミスで上位選手が失格になったという事例もあります。自分のマーカーがラウンド途中で棄権してしまいマーカー交代となったのですが、その場合には二人のマーカーのサインが必要になります。ところが、既に最初のマーカーのサインがしてあったので勘違いして、そのまま提出してしまったというものでした。勘違いとはいえ、上位選手が失格になってしまったという珍しい事例でした。
アテストエリアでは、ラウンド中に疑問に思ったルールの確認なども行われ、裁定が下されることもあります。映像を確認しながら、ペナルティになるかどうかを検証するのも、この場所です。
一度、アテストエリアを出てしまうと、戻って記入し直すことはできません。OKが出るまで、選手はそこに待機しなければならないため、ホールアウトしてから優勝インタビューまで少し時間がかかるのは、そういった理由です。優勝が決まらず、プレーオフに持ち込まれた際も同じ。18ホールを終えた時点でアテストは必ず行われ、全ての順位を確定してから1位決定戦であるプレーオフが行われるのです。
誰しも、アテストのミスで失格にはなりたくないもの。スコアカードを提出する時の選手の表情は、皆とても真剣です。それが、優勝のスコアカードならなおさらです。
アテストルームを出ればクラブハウスへと戻るのですが、優勝者だけは優勝インタビューや表彰式のために18番のグリーンに戻ります。優勝を決めた選手が、他の選手とは反対の方向にアテストルームを出るとき、きっと最高に晴れやかな気分に違いありません。
◆おだみなプロフィール
おだみな／元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。
