女性ゴルファーが集まったコンペ会場の活気に、キム・ハヌルさんは目を丸くしました。韓国では、これほど多くの女性だけが集まるコンペはなかなか見られないといいます。日韓のツアーで戦い続けた“スマイルクイーン”に、ゴルフとの出合い、忘れられない日本での優勝、そして引退後に初めて知った楽しさを聞きました。

◆女性だけでこんなに盛り上がる! 韓国にはない光景がうらやましい
会場を包んでいたのは、女性ゴルファーたちの笑い声と、次のラウンドを楽しみにする高揚感でした。今回、女性だけが参加するゴルフコンペ「Regina Open 2026」に加わったキム・ハヌルさんが何より驚いたのは、その人数と熱気です。
韓国にも女性ゴルファーは多くいますが、これほど大勢の女性だけが一堂に会し、コンペそのものを楽しむ光景はなかなかないそうです。ゴルフを通じて女性同士がつながり、一日を満喫する日本のスタイルは、ハヌルさんにはとてもうらやましく映ったといいます。

そんなハヌルさんがゴルフを始めたのは、小学5年生のときでした。韓国のゴルフ人気を一気に高めたパク・セリさんの活躍を見て育った、いわゆる「セリ・キッズ」の世代。ちょうど小学校にゴルフ部が次々と誕生した時期で、ハヌルさんも学校のクラブ活動をきっかけにゴルフと出合いました。
父親に勧められたと思われがちですが、実はゴルフを始めたのはハヌルさんが先でした。
「父はそのとき、ゴルフをまったくやっていませんでした。私が先に始めて、『ゴルフ選手にさせるなら、お父さんもできなきゃいけない』と、あとから始めたんです」
初めて練習場へ行った日のことは、今もよく覚えています。ほかの子どもたちが7番アイアンを渡される中、ハヌルさんに配られたのは5番アイアンでした。当時は番手の違いも分からず、「5は7より数字が小さい。私はみんなより遠くへ飛ばしているから、きっと上手なんだ」とすっかり自信を持ったのだとか。
「遠くに飛ぶのは当たり前なのに、私は『あの子たちより上手なんだ』と思って(笑)。だから、もっとゴルフにハマったんだと思います」
難しいクラブを渡された偶然と、子どもらしい小さな勘違い。その“成功体験”が、後のトッププロを夢中にさせる最初の一歩になりました。
◆現役のときは楽しくなかった!? 引退して初めて知ったゴルフの本当の楽しさ
小学生の頃からプロになることを意識し、韓国ツアーでは賞金女王に輝き、日本ツアーでも6勝。華やかな実績を残した一方で、現役時代のゴルフは純粋な楽しさだけではありませんでした。

「あのときは仕事でしたし、稼がなきゃいけない。勝負であり、競争でした。プライベートでゴルフに行っても、うまく当たらないと『これが試合につながったらどうしよう』と不安になるんです」
引退した直後は、しばらくクラブを握りたくなくなるのではないかと思っていたそうです。ところが、実際は逆でした。
「天気がいいと、『あ、ゴルフに行きたいな』って思うんです。春や秋は天気がすごくいいので。今はゴルフが趣味になりましたから、ゴルフに行くのが本当に楽しい。現役のときは楽しくなかったです(笑)」

もちろん、プロとして鍛えていた頃と同じようにはいきません。ドライバーの飛距離は全盛期の約230ヤードから約200ヤードへ。球を打つ量が減り、思い切り振り切れなくなったことには「ちょっと悲しいです」と笑います。それでも、ミスが翌週の試合へつながる心配はありません。飛距離やスコアだけでは測れないゴルフの魅力を、今はゆっくり味わえるようになりました。
日本での競技生活を振り返れば、大きな転機もありました。2015年の日本参戦1年目は、韓国ツアーの賞金女王(11年と12年)として注目を集めながら、参戦当初は環境になじめず成績も伸びませんでした。「もう韓国に帰らなければいけないのかな」と思い詰めていた9月、「マンシングウェアレディース東海クラシック」で日本ツアー初優勝を飾ります。

「韓国で初めて優勝したときよりもうれしかったと思います。『これで私も日本で足場を固められた』と思えたので、私にとってはとても大きな優勝でした」
翌年には2週連続優勝も達成。「私は2週続けてうまくできるタイプではない」と思い込んでいた自分を超え、「私にもこういうことができる」と自信を得ました。
勝つために始め、勝つために続けてきたゴルフ。その長い時間を経たからこそ、競争から離れた今、女性たちが笑顔で集うコンペの熱気や、晴れた日にコースへ向かう喜びがいっそう新鮮に感じられるのかもしれません。
◆スコアだけではない、自分らしいゴルフの楽しみ方をもう一度見つけよう
ゴルフには、スコアを競う面白さもあれば、仲間と一日を過ごす楽しさもあります。結果を追い続けたハヌルさんの「今のほうが楽しい」という言葉は、自分に合った距離でゴルフと付き合う大切さを教えてくれます。一緒に回る人との時間を味わうことも、長く楽しむための立派な目標です。
キム・ハヌル/韓国女子ツアーで2年連続賞金女王に輝き、日本ツアーでも通算6勝を挙げたトッププレーヤー。2016年の「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」、2017年の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」を制するなど、日本でも高い人気と実績を誇る。ツアー引退後は韓国メディアを中心に活動の場を広げている。“スマイルクイーン”の愛称で親しまれ、華やかなプレースタイルと親しみやすい人柄で多くのファンを魅了し続けている。
撮影/三浦伸一 取材・文/金明昱 取材協力/取手桜が丘カントリークラブ【アコーディア・ゴルフ】








