プロキャディがこっそり教える、『ラウンド中のプロゴルファーたちの会話』

「ラウンド中、プロとキャディさんって何を話しているの?」と、疑問に思われる方も多いようで、聞かれることも多々ありますが、答えはいつも同じ。

「たいしたことは話していません!」

内容を隠したいわけでも、ゴルフが上手くなるような秘伝の何かというわけでもなんでもなく、次のボールの位置へ向かうまでの会話は本当にありきたりなものなんです。今週の宿泊先についてとか、どこで何を食べたとか、昨日見たテレビについてなど……。そういった、ゴルフと全く関係のない会話がほとんどだったりします。結婚しているプロやキャディが揃えば、家庭の話やペットの話などで盛り上がることも珍しいことではありません。

もちろん、プロの調子が良くない時などには、どうしたら良いかなんて話もするかもしれません。でも、今その時に必要でない場合、そういったゴルフ関係の話はラウンド終了後にすることがほとんどです。

何年も前の話ですが、ラウンド中のキャディにマイクを付けて、プロとの会話を拾うというテレビ局の試みがありました。実際に、テレビに映りそうなキャディ、つまり優勝争いをしているプロのキャディに小さいマイクを付け、いざラウンド! となりましたが、テレビ視聴者の方の役に立つような会話は、ショットやマネジメントにまつわる情報なのに、そう言った会話は球を打つ前後に少しするぐらいで、歩いている間にはあまりしません。

ときには、新しいクラブの感想や、コースマネジメントについて話していることもあります。けれど、ほとんどは仕事や学校の休み時間に、友達や仕事仲間と会話するような、そんな内容のものばかり。結局、マイクを付けてのラウンドは、その一回きりとなってしまいました。TVで話していいのかわからずに、何も話せなくなってしまうキャディの気持ちもよくわかりますし、マイクをつけることになったのが自分でなくて良かったと、今更ながらに思います。

大切なのは、会話の内容ではなく会話すること

だからと言って、“会話”そのものがどうでも良いというわけではありません。ゴルフはボールを打っている時間よりも移動している時間の方が圧倒的に長いスポーツ。プレーしている時間全てをゴルフにだけ集中して過ごすというのは、とても難しい! しかも、集中するということはそれだけ気力も体力も使います。毎週のように開催されている大会は、それぞれ4日間、もしくは3日間という長丁場。体力と気力の温存は大切な課題です。

つまり、ボールを打つ時に集中できるように、歩いている時は気持ちをどこに持っていくかもとても大切なこと。くだらない会話で笑って、リラックスすることも時には必要。つまり、その話の内容そのものが大切なのではなく、会話するという動作が大切なのです。

あまり話すのが得意でないプロももちろんいます。何か考え事をしながらラウンドするようなプロもいます。ただ、考え事をしていると思わず下を向きがちになってしまう視線を、会話をすることで自然な形で上に戻すことができるので、タイミングを見て話しかけているキャディの姿をたまに見ることができます。

優勝争いのような緊張を伴う場面でも、緊張をほぐすためにキャディが会話を振ることはよくあります。がちがちだった表情が、笑うことで少しでもほぐれれば、それこそ優勝にまた1歩近づくというもの。
「明日までに、面白い話を5つ見つけてきて」とキャディに頼んだ選手がいるという嘘か誠かの逸話も、こういった状況になったときに、会話がいかに大事かを物語っていますね。

ゴルフは3、4人(プロの大会では、通常3人)でプレーするものなので、組の雰囲気が良いに越したことはありません。しかも、一緒にラウンドしているプロやキャディのほとんどは、また次週の会場でも会うような狭い世界。それこそ、同じ職場の仲間と言ってもあながち間違いではなく、職場の雰囲気を良くするために会話を試みるよう、プロやキャディも会話を利用しているのです。

◆おだみなプロフィール

おだみな/元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。

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