佐伯三貴のツアー裏話【シーズン中は旅から旅が日常】

こんにちは。佐伯三貴です。7月に入り、ますます盛り上がっているツアー。そこでプレーするプロたちの日常を、今回は少し詳しくみなさんにご紹介しましょう。

画像/Getty Images

会社にお勤めのみなさんの多くは、平日に出勤(今はリモートワークの方も多いようですが)して土日はお休みですね。でもツアープロにとっては週末の試合こそが一番大事な仕事の場です。3日間大会なら金曜日から、4日間大会なら木曜日からが本番なのは、ツアーを見ていただいている方はご存じですね。

では、週の前半は何をしているのでしょう。実は、シーズン中は、お休みらしいお休みはあまりありません。広い米国ほどではありませんが、日本ツアーでも試合は北海道から沖縄まで全国各地で行われます。スケジュールによっては移動だけで半日以上かかることもあるほどです。

週末の試合から逆算してみましょう。コロナ禍で中止になっていることもありますが、一般的には試合前日にプロアマと呼ばれるイベントがあります。主催者やその取引先などを中心にしたアマチュアの組に、プロが1人ずつ入って一緒にプレーします。プロのプレーをお見せしたり、アマチュアの方にレッスンをしたりして、ゴルフを楽しんでいただくことが目的です。

スポンサー企業さんにとってプロアマは取引先などに自分たちをアピールする大切な場。有名人などを招待して注目を集める企業もあり、試合と同じくらい重要視されています。プロにとっても、ここで知り合った方と仕事でつながることも多く、人間関係を広げることができる大切な場でもあります。

プレーできる組数は限られますから、シード選手や人気選手しか出場できません。プロアマに出られるのは、プロにとってステイタスとも言えるのです。
プロアマ前日と前々日は指定練習日。毎年、試合会場となっているコースでも、改造が行われたり、セッティングが変わったり、天候などでコンディションが変わっていることもあります。ほとんどの選手は少なくとも1ラウンドは回ります。2ラウンドすることも珍しくありません。

わかりやすいように、3日間大会で練習ラウンドを1回しかしない場合で考えてみましょう。プロアマが木曜日、練習ラウンドが水曜日。火曜日に移動して午後から練習ラウンドか、打ち込み・・・。残っているのは月曜日しかありません。4日間大会ならもっと忙しいことになります。意図的に試合を休む週を作らない限り、月曜日しかあいていない。それがツアープロの生活です。

シーズン中はホテルで寝泊まりするのが基本で、自宅に帰れるのは日曜日の夜。予選落ちでもしない限り、プロゴルファーはそれほど旅から旅への日常を送っています。

この中でトレーニングやマッサージなどの体のケアもしなくてはなりません。見られる職業ですから、身だしなみも大切。プロたちは、この中で時間を作っています。

荷物は・・・とんでもなく多いです(苦笑)。私は特に荷物は多かったほうだと思います。シード選手ならウェア契約先があることがほとんどなので、送られてきたウェアを、ラウンドする分プラスアルファ(天候なども考えて)持って歩きます。ゴルフバッグはもちろん大切な仕事道具ですが、それ以外にも持っていかなくてはならないものがたくさんあるからです。私の場合は、スーツケースを毎試合2つずつ入れ替える形で回していました。何十セットものウェアを入れ替えながら、持って帰った分をクリーニングに出して、翌週、また入れ替えるシステムです。

コースから戻ってもゴルフウェアでいるプロもいますが、私はホテルに戻ったら私服に着替えたいタイプ。みなさんの旅行と違って旅先が日常なので、シャンプーなども自分のものを持って歩く場合がほとんどです。雨が降れば使うタオルも、テレビに映る可能性があるから契約先のものを使わなければならなかったりします。シューズも1足ではありません。

荷物を預けてから搭乗する飛行機はとにかく、新幹線では荷物置き場が近い車両の一番後ろは、プロの定位置と言っていいでしょう。

洗濯機は、日曜日の夜か月曜日に2回、回すのが当たり前でした。
ネイルサロンに行ったり美容院に行くのもリラックスできる時間です。それ以外は、自宅にいるときに女子会をしたり、試合の合間に友達と食事をしたりするくらいです。

コロナ前は、試合がある地方のそれぞれの食べ物も楽しみでしたが、やはり試合があるのでそれほどリラックスはできません。特に今は、感染リスクを考えると食事に出るだけでも気をつけなくてはならないようです。

以前から、私は移動中にマスクを着用していました。もっと前は、マスクや帽子で“変装”するなんて「エラそうに」と言われる気がしていたのですが、一度、新幹線で思い切り風邪をうつされてしまったことがあってから考えを変えました。近くにものすごく咳をしている人がいて、その後、背中がゾクゾクしてやられました。プロゴルファーは体が資本。日常である移動中のリスク管理も大切な準備なのです。

ポツリポツリとですが、ギャラリーの方に入っていただける試合が出てきました。お客さんがいるのといないのとでは緊張感が全く違います。プロの試合はお客さんが入った者が完成形だと私は思っています。

ワクチン接種が進み、安心、安全になって試合会場にいらっしゃるときには、こんなプロの日常も思い描いていただけると、さらに親しみが増すのではないでしょうか。

取材・文/小川淳子 写真/Getty Images

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