プロの大会を見ていると、プレー中に手に冊子のようなものを持って、見比べたり書き込んだりしている姿、よくみかけませんか？「ヤーデージブック」と呼ばれるあのメモには、コースについての情報が満載！ バンカーの配置、グリーンの形といったコースのレイアウトや、グリーンエッジまでの距離、ティグラウンドから目印となるような木やハザードまでの距離といった様々な情報が入っています。
◆ヤーデージブックの歴史とその重要性
現在、日本のプロトーナメント会場でヤーデージブックを販売している業者は2社ほど。ヤーデージブックが販売されるようになる前は、距離の書かれていないコースレイアウトだけが書かれた冊子が運営から配られていました。そのため、練習ラウンド中に距離を測ったり、グリーンを細かく調べたりといったことが必要でしたが、距離計が普及していなかった当時は全て歩測。必要な情報が調べきれないまま、本番を迎えることも。次第にプロキャディの人数が増えてくると、数名集まって協力して距離を測るように。一部のキャディグループがヤーデージブックを作成、販売するようになると、それがプロやキャディの間で瞬く間に浸透していきました。
中身の情報量は、年々充実していっていましたが、現在は距離計の使用が認められている大会も増えてきて、距離に対する情報の必要性が少なくなってきました。男子ツアーではグリーンの形状が書かれたメモの使用が禁止され、それまで細かく傾斜が書かれていた場所にはグリーンの形が書かれているだけになっています。
それでも距離計では測りづらいバンカーやグリーンエッジまでの距離や、コース全体の形を把握しやすいレイアウト図は、プロやキャディにとってまだまだ必需品であることは間違いありません。
◆プロキャディたちは、ヤーデージブックに何を書き込んでるの？
コースの情報がびっしりと印刷されているヤーデージブック。でも、試合中にプロやキャディが何やら書き込んでいる姿をよく見かけます。さて、一体何を書き込んでいるのでしょうか？
私も元プロキャディとしてヤーデージブックにはお世話になってきましたが、他のキャディさんのものを覗かせてもらうのは初めて。不安を抱きながらも、ベテランプロキャディさん達に思い切って声をかけてみました。すると、「企業秘密」と言って、見せてくれなかったキャディさんももちろんいましたが、ほとんどの方が快くOKをくれました！
さて、どのキャディさんの書き込んだものを見ても、パッと見た感じは暗号のよう。ちなみに、私がヤーデージブックに書き込んでいたのは、見えていない傾斜や、レイアップする場所、基本の風とは違う風を感じそうな地形、グリーン周りのいってはいけない場所など。試合中には、ピンポジションとその時の風、残り距離、使ったクラブ、キャリーした距離などを書き込んでいました。こうして他のキャディさんのヤーデージブックを見せてもらうと、私が書き込んでいたものも自分では何を書いているのかわかっていても、他の人が見れば暗号のようだったかもしれません。
さて、見せていただいたメモには見慣れぬ数字や記号もあって、その意味を質問させていただきましたが、概ねその時のショットや結果について書いてあるものがほとんどでした。では、それをメモしておいてどうするかというと、次ホール以降に情報のひとつとして使用します。全ホール全ショットを憶えているキャディさんも少なくありませんが、メモをとっておくことでミスを減らす、または情報を増やすことが重要です。しかし、試合本番中の書き込みは、あれもこれもとメモしても時間の無駄。皆さん、必要な情報だけをササっと書き込んでいるので、どうしても自分にしか理解できないような暗号になってしまうのでしょうね。
何名かのベテランキャディさんは、ショットの情報などを書き込む部分に付箋を貼っていました。それだけたくさんの情報を書き込んでいるのかと思いきや、実はメモを毎年使いまわせるように直接書き込まないようにしているとのこと。ヤーデージブック代も毎週ともなれば馬鹿にできないという理由もあるかもしれませんが、それ以上に昨年のメモに書き足していくことで、コースに関する情報が年々増やしていくことが重要なのだそうです。ベテランプロキャディさん達に対するプロ達からの信頼は、そういったコースに関する情報量の多さも大きな理由のひとつかもしれません。
◆おだみなプロフィール
おだみな／元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。
