「今は目標を作らないようにしています」キム・ハヌルが引退後に見つけた新しい楽しみと、日本で見つけた“心の余裕”

長く目標を追い続けてきたからこそ、今はあえて次のゴールを決めない。

引退後のキム・ハヌルさんは、運動や食事、友人との会話を楽しみながら、一日一日を大切に過ごしています。日本で覚えた「心の余裕」、最近始めた水泳、そして今いちばん幸せを感じる時間について聞きました。

◆走れないなら泳いでみる。引退後も変わらない運動好きな素顔と日常

「最近は友達とおいしいものを食べたり、運動したり、自分磨きの時間を多く取っています。皮膚科に行ったり、マッサージに行ったり。よく遊んでいます(笑)」

オフの日は、自分のために使う時間を大切にしているというハヌルさん。その過ごし方には、アスリートらしさも残っています。2年ほど前から夢中になっていたのはランニングでした。1回5〜10キロを週5日。ほとんど毎日のように走っていたところ、膝の軟骨を痛め、医師から止められてしまいました。

「有酸素運動はしたいのに走れなくなって、ストレスだったんです。それでリハビリも兼ねて、水泳を始めました。私、水泳がまったくできなかったんですよ。水が怖くて。今はクロールを習っていますが、まだ25メートルも泳げません」

意外にも、泳ぎはまったくの初心者。トッププロとしてゴルフを極めた人が、できないことを一から習う新鮮さも、引退後の楽しみの一つなのでしょう。

◆日本のお気に入りはコンビニスイーツ!韓国でおすすめのグルメも紹介

今回の来日では、麻布台ヒルズや六本木、新宿を訪れたというハヌルさん。渋谷、原宿、表参道エリアの散策やショッピングも好きだといいます。

日本でのお気に入りを聞いてみると、「日本で欠かせない楽しみはコンビニスイーツ」との答えが。ローソンのロールケーキや「もちぷよ」もお気に入り。次々と登場する新商品を見つけることも、日本を訪れる楽しみになっています。

中でも毎晩食べるほどのお気に入りが「チョコモナカジャンボ」。モナカのパリパリ感と中に挟まれた薄いチョコがお気に入りで、韓国の友人にも必ずすすめているのだとか。

「本当に韓国に入ってきてほしいです。森永さん、最高です(笑)」

日本のゴルフ女子のために韓国のおすすめスポットを聞いてみると、薬水(ヤクス)駅にある「金豚食堂(クムテジシクタン)」を紹介してくれました。サムギョプサルがおいしく、芸能人も訪れる人気店で、行列ができることも多いそうです。

画像提供/金豚食堂

ソルロンタンなら、三成洞(サムソンドン)の「ウェゴジプ・ソルロンタン」を挙げてくれました。牛の旨みが溶け込んだやさしい味わいで、疲労回復や美容を意識する人にもうれしい一品です。

◆日本のファンと先輩たちが教えてくれた、焦らず人を思いやる温かさ

日本で暮らし始めた当初、ハヌルさんは生活のテンポを“遅い”と感じていました。

「1年目は、みんなゆっくりなので『なんでこんなに遅いんだろう?』と、すごくもどかしかったんです。でも何カ月か暮らしてみたら、すごく心地よくなりました」

韓国のスピード感に慣れていたからこそ、ゆっくりと流れる日本の時間に、少しずつ心の余裕を見つけていきました。

日本で運転を始めた頃も、周囲のドライバーは不慣れなハヌルさんを急かさず待ってくれました。「韓国ならクラクションを鳴らされているような場面でも待ってくれて、本当にありがたかった」と振り返ります。

今では韓国の空港に着くと、せわしなく行き交う人々を見て「みんな、どうしてこんなに急いでいるの?」と圧倒されるのだとか。両国で暮らしたからこそ、自分に合う心の速度が分かるようになりました。

日本のファンにも、同じような温かさを感じています。

「ゴルフが上手だからというより、選手を一人の人として好きでいてくださる。愛されている実感がすごくありました」

成績が振るわないときも適度な距離を保ち、静かに見守ってくれる。そのマナーの良さは、プレッシャーの中で戦う選手にとって大きな支えでした。

ファンに囲まれた日本ツアーでの1シーン/Getty Images

ツアーでは、上田桃子さん、笠りつ子さん、有村智恵さん、飯島茜さんをはじめ、1986、87年生まれの先輩たちにもかわいがってもらいました。

「海外から来た私にいつも優しく声をかけてくれて、ツアー生活の中で本当に大きな支えになりました。皆さん実力も人気もあるスター選手なのに、気さくに接してくれて感謝しかありません」

今も韓国で会い、食事をすることがあります。

仲良しの選手たちをはじめ大勢に見守られた引退試合/Getty images

これからの夢を尋ねると、返ってきたのは「あえて目標を作らないようにしています」という答えでした。

「これまでずっと目標に向かって走り続けてきました。これからは気負わず、今与えられた日々に最善を尽くして、楽しく生きたいです」

友人とおいしいものを囲み、気兼ねなくおしゃべりをする。1988年生まれのゴルファーが中心となり2018年に結成した「V157」(キム・ハヌル、イ・ボミ、申ジエ、パク・インビ、チェ・ナヨン、ユ・ソヨン、イ・ジョンウンら7人の18年当時の勝利数が157勝だったことが由来)で集まる。「そうした時間が、今は最も幸せを感じます」。

◆急いで次のゴールを決めず、今日の小さな幸せを丁寧に味わってみる

現役時代のハヌルさんを前へ進めたのは明確な目標でした。引退後の今を豊かにしているのは、目の前の時間を味わう心の余裕です。

走れなければ泳ぎ、新しいおいしさに出合えば誰かにすすめる。大きな目標がなくても、好奇心を持って今日を楽しむことが、次の幸せへ自然につながっていきます。

キム・ハヌル/韓国女子ツアーで2年連続賞金女王に輝き、日本ツアーでも通算6勝を挙げたトッププレーヤー。2016年の「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」、2017年の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」を制するなど、日本でも高い人気と実績を誇る。ツアー引退後は韓国メディアを中心に活動の場を広げている。“スマイルクイーン”の愛称で親しまれ、華やかなプレースタイルと親しみやすい人柄で多くのファンを魅了し続けている。

撮影/三浦伸一 取材・文/金明昱 取材協力/取手桜が丘カントリークラブ【アコーディア・ゴルフ】

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