14歳でゴルフに出会い、プレーヤーではなく“つくる側”の道を選び、PINGに入社したBrooke Tyree(ブルック・タイリー)さん。
同社初の女性デザインエンジニアとして開発の最前線に立つ彼女が来日するとあって、Regina編集部でも取材を熱望。
今回は、Reginaクリエイティブディレクターの月本えりが聞き手となり、ブルックさん自身のキャリアから、PINGのクラブ開発の思想、最新作『G LE 4』設計へのこだわりまで、お話を伺いました。

◆“自分でクラブをつくりたい!” ゴルフ愛が導いた、PINGデザインエンジニアという仕事
今回が初来日となるブルックさんは、女性初のデザインエンジニアとしてPING US本社に入社し、現在3年目。この春発売の最新レディスクラブ「G LE 4」にも携わるなど、開発の現場で着実に経験を重ねています。

ブルックさん(以下、ブルック)「私は14歳でゴルフを始めました。中学から大学まで続けましたがプロを目指していたわけではなく、ゴルフはあくまで“楽しむもの”という感覚。大学では機械工学を専攻していました。もともと物理や、CADを使った設計に興味があったんです。
大学4年生のときに、インターンシップでPINGのアメリカ本社に行く機会があって、そこで初めてクラブ開発の現場を見ました。最初はプロジェクト管理を担うプロジェクトエンジニアの研修を受けていたのですが、“自分で設計したい!”という気持ちがすごく強くなって。
ずっと続けてきた大好きなゴルフと、自分の学んできた専門分野を重ねて考えたときに、“デザインエンジニア”という今の仕事が一番しっくりきたんです。大学卒業後はPINGにデザインエンジニアとして入社して、今に至ります」

Regina・月本(以下月本)「女性初のデザインエンジニアということですが、男性中心の環境だったんでしょうか。働く中で、女性ならではの視点が活きていると感じる場面はありますか?」
ブルック「デザインエンジニアとしては女性初なのですが、エンジニア部署全体で見ると、プロジェクトエンジニアなど他の職種には女性もいます。なので、“男性の中で働いている”という感覚はあまりなくて、環境としてはすごく働きやすいです。
レディス事業のリーダーであるステイシー・ソルハイムとは、女性同士ということでより密にコミュニケーションが取れるので、女性の視点を開発に反映しやすくなったのではないかな、と思っています」
◆PINGが“女性のためクラブ設計”にこだわる理由
月本「レディスクラブの開発についても教えてください。メンズモデルをベースにスケールダウンしたものも多い中で、PINGは“女性のための設計”を貫いていますよね」
ブルック「はい。これは創業者と、その妻であるルイーズ・ソルハイムの考え方がベースになっています。PINGでは、男性と女性は“まったく別”と考えています。それぞれに違うニーズがあって、フィッティングの結果も変わってきます。
ルイーズは女性のゴルフを発展させる活動にも深く関わっていて、たとえばソルハイムカップ(※)も彼女のアイデアから生まれたものなんです。そうした背景があるので、クラブもメンズクラブの延長ではなく、女性のために設計する。別のラインとして開発しています」

月本「女性のニーズや使いやすいもの、というと、軽さやシャフトのやわらかさというイメージです。それ以外で意識されていることはありますか?」
ブルック「重量やバランスといったスペックはもちろん大事ですが、とくに重視しているのはパフォーマンスです。開発のテストでは、レディスクラブは女性のヘッドスピードを基準にしています。その条件で設計することで、フェースをより薄くしたり、飛距離を出しやすい構造を検討することができます。
それと、もうひとつ大切にしているのが音。女性のヘッドスピードでも、打ったときにしっかりとした気持ちよさを感じてもらえるように設計しています」
月本「なるほど。あとは、女性にとってはデザインやカラーリングも重要ですよね」
ブルック「そうですね! 私自身のクラブ選びでも、結果がいいのは大前提ですが、見た目もすごく重視しています。
PINGはイギリスにパフォーマンスセンターを持っていて、そこでは人間の動作や脳、メンタル面の研究を行っています。そうした研究の中でも、“見た目はパフォーマンスに大きな影響を与える”という考えがあって、トレンドなどを踏まえながら、女性メンバーを中心に、クラブのカラーリングを決めています」
◆飛ぶだけじゃない? 開発がこだわった『G LE 4』の女性にうれしい進化とは
月本「G LE 4のカラー“ギャラクティック ライラック”もそうやって決まったんですね。すごく印象的なカラーですけど、最初に見たときどう感じましたか?」
ブルック「すごく素敵な色だし気に入ってます! 見る角度によって色が変わるような塗装をしてるので、実際に見ていただくと面白いと思いますよ」

カラーの話で盛り上がったところで、話題は『G LE 4』へ。『G LE 4』は、4月9日発売の最新レディスモデル。PINGの最新メンズモデル「G440」にも搭載されている“飛び重心”設計を採用し、大きな飛距離はもちろん、低重心による高弾道とミスへの強さを両立したクラブです。ブルックさんはドライバーとハイブリッドの開発に携わったといいます。
月本「前作G LE 3から約2年半ぶりの、待望の新作ですね! 開発の中でこだわった点があれば教えてください」
ブルック「私たちは“前作を超えないと出さない”というポリシーで開発しています。これはレディスでも徹底している考えです。G LE 3のフィードバックを各方面から集めて、改善点を洗い出し、最新作の開発に反映しています。さらにPINGではフィッティングのデータを常に蓄積しているので、それを分析して、設計とのズレを修正しています。“設計した意図通りに使われているか”を検証して、次のモデルに反映するようにしています」
月本「前作と比較して大きく変わった点はありますか?」
ブルック「G LE 3は“球の上がりやすさ”に課題がありました。そこで今作のハイブリッドは、前作よりも低重心に設計して、カーボンクラウンの構造に変えています。よりしっかり球が上がるようになったのが魅力のひとつです。
それと、もうひとつ大きく変わったのがスペックです。G LE 3のフィッティングデータを分析すると、“番手間の距離の差”が、開発時に想定していたほどきれいにつながっていなかったことがわかったんです。なので今回は、ハイブリッドに8番を追加して、アイアンのロフトも見直しました。フェアウェイウッドからアイアンまで、各番手の飛距離が自然につながるように構成しています。
飛びすぎることもないし、逆に飛ばなすぎることもない。ちょうどいい距離で打ち分けられるようになっていると思います」

月本「番手間の飛距離ギャップ、私も悩んでました。上手く打ち分けることができなくて…。多くの女性ゴルファーにとってうれしいニュースだと思います」

ブルック「G LE 4の発売に合わせて、『WEBFIT LADIES』というサービスも全世界でリリースしています。もともとは開発時にも使用していたソフトなのですが、これがすごくわかりやすいので、ゴルファーの皆さんに向けて提供しています」

ブルック「女性ゴルファーの場合、フェアウェイウッドとハイブリッドの距離が重なってしまっている方が多いんです。どの番手を入れればいいか分からなくて、結果的にオーバーラップしてしまう、というケースです。
ヘッドスピードによっては、14本全部いらない方もいますし、実は10本くらいで十分な場合もあります。なのでレディス版のWEBFITでは、フルセットの提案と、番手を絞った提案、2つのパターンを出せるようにしています。そこから選んでいただければいいかなと。
WEBFITにも、“ハーフセットからでもちゃんと選びたい”という女性の意見が反映されているんですよ」

最後に、クラブ選びの考え方についても聞いてみました。
月本「日本ではクラブが“メンズ”“レディス”と分けて売られていることが多いですが、女性は女性用のクラブを使うのが一般的、という考え方は、アメリカでも主流なんでしょうか?」
ブルック「そうですね。アメリカでも、初心者セットやレディスクラブが“専用”としてコーナー化されていることが多くて、そうした考え方が根付いているのは同じだと思います。
ただ、ここ10年くらいでフィッティングやカスタムがかなり一般的になってきています。日本のデータを見ても、メンズのヘッドにレディスのシャフトを組み合わせたり、メンズの軽量モデルを選ばれる女性が多いと聞いています。
PINGではフィッティングを通じて1本からクラブを購入することができますし、レディスモデル、メンズモデルと分けて考えるのではなく、自分にフィットしたクラブを選ぶ、という考え方をもっと広げていきたいと思っています」
撮影/田中宏幸 取材協力/ピンゴルフジャパン








